今回は、資産、負債、ポートフォリオの状況を把握するためのバランスシート構造、作成方法と留意点、バランスの見直し方法や分析などについて事例を交えながら解説しよう。
バランスシートとは一定時点における資産と負債の状況を表したもの。
これを個人に適応させたものがパーソナル・バランスシートです。
年間キャッシュフロー報告書とキャッシュフロー表を作成することによって年次ごとの現金収支は把握することはできます。
しかし、残念ながらそれだけで資産・負債の概要を把握するのはとても困難です。
※キャシュフロー表の作成については「ライフイベント表とキャッシュフロー表」の中で詳しく解説しているので、そちらを参考にしてください。
これが、主だった資産が金融資産のみという家庭のケースでは、キャッシュフロー分析だけでも十分でしょう。
しかし、不動産や株式などの評価損が出ている場合や住宅ローンなど、多額の負債を抱えている場合などは、キャッシュフロー表だけで問題点を発見するのは難しいです。
資産のポートフォリオ分析を考慮する必要がある場合、バランスシートが役に立ちます。
そこで、今回は「バランスシート」を活用して、個人の資産全体を見直す方法を紹介しましょう。
なお、ライフプランの際に活用できるデータをこちらに掲載しておきます。
ライフプランを作成する際にも用いられているバランスシートの構造
(総)資産=負債+純資産、または、純資産=(総)資産―負債
これが、バランスシートの公式になります。
法人のケースとは異なり、個人のバランスシートには出資による資本がないので、資産から負債を引いた残りがプラスであれば、それが純資産ということになります。
マイナスの場合は、資産と負債のバランスがとれていない状態です。
これが純負債です。
資産の方が多い場合
資産 | 負債および純資産 |
負債 | |
純資産 | |
資産合計 | 負債と純資産の合計 |
負債の方が多い場合
資産および純負債 | 負債 |
資産 | |
純負債 | |
資産と純負債の合計 | 負債と純資産の合計 |
ライフプランと資産ポートフォリオ
資産には、現金・預金、株式・債券、投資信託、土地、建物、キャッシュバリューのある生命保険、個人年金、確定拠出年金、その他さまざまなアセット(資産)クラスがあります。
※キャッシュバリューとは、解約返戻金などの現金価値のことです。
これらのアセット(資産)クラスは、インカムゲインとキャピタルゲインという2つのキャッシュフローを生みだします。
インカムゲインは利子や収益のことで、キャピタルゲインは売却益のことです。
そして、これら資産の組み合わせをポートフォリオと呼んでいます。
※ポートフォリオについては「ポートフォリオの記事一覧」を参考にしてください。
具体的には、以下の3つのポートフォリオが考えられます。
①総資産ポートフォリオ
すべての資産クラス全体の組み合わせ。
②マネーポートフォリオ
現金・預金と株式・債券・投資信託などの組み合わせ。
③証券ポートフォリオ
株式・債券・投資信託などの組み合わせ。
バランスシートにすると以下のようになります。
バランスシートⅠ
資産 | 負債および純資産 |
現金など
投資資産
使用資産
|
負債
|
負債合計 | |
純資産 | |
資産合計 | 負債と純資産の合計 |
バランスシート作成方法と留意点
バランスシートを構成する項目に決まりはないので、構成は自由に行ってください。
例えば、以下のように決めておいても構いません。
- 1年以内に換金できるものを流動資産・流動負債
- 1年をこえるものを固定資産・固定負債
これは法人のバランスシートの場合ですが、自由に構成してください。
また、米国で広く用いられている、現金・投資資産・使用資産の3つに分けるという方法もあります。
a)現金など
現金などとは、現金および現金など価物で、流動性のある資産のことです。
また、現金預金のほかに、養老保険・個人年金などキャッシュバリューがある生命保険も含まれます。
そして、この一部が「不時の出費」
つまり、緊急資金に充てられてるわけです。
b)投資資産
投資資産とは、文字どおり投資用の資産です。
株式、債券、投資信託、確定拠出年金、変額年金、不動産、コモディティなどがこれに該当します。
流動性のある変額年金は、現金に分類することもできます。
これとは逆に、キャッシュバリューのある外貨建て個人年金を投資資産とすることも可能です。
また、賃貸アパートなどがあれば、投資資産としても構いません。
c)使用資産
これは実際に生活に使う資産であり、住宅・土地や自動車そして家財などが該当します。
しかし、将来住宅を買い換えるというのであれば、投資資産としても考えられるでしょう。
また負債については、クレジットカードのキャッシング残高も流動負債とする必要があります。
バランスシートと資産評価
バランスシートにおける資産評価は時価評価が原則です。
特に次に上げるものは、資産評価に留意する必要があります。
土地などの不動産
近隣の取引事例などにより時価を求める必要があります。
※不動産ついては「不動産を効率的に活用する」を参考にしてください。
生命保険など
養老保険、終身保険、個人年金保険など、資産性のある生命保険については、解約した場合の解約返戻金、つまリキャッシュバリューの時価になります。
生命保険については「リスクをマネジメントする」を参考にしてください。
株式など
評価日の終値また、中高年者の場合は、資産の相続税評価も行い、相続税額を試算しておくことも重要です。
※株式など金融資産運用については「マネープラン・ガイダンス」を参考にしてください。
負債の意義
返済可能な範囲の負債は、資産形成の原動力の1つとなる可能性があります。
負債から生じる元本返済と利息支払いというマイナスのキャッシュフローを上回る資産形成が可能かどうか、それを判断し、資産と負債のバランスをとる必要があります。
将来キャッシュフローを慎重にシミュレーションし意思決定する必要があります。
バランスシートの分析と見直し
パーソナルバランスシートの分析にあたって、特に以下の2点に注意してください。
- ライフプランとリスク許容度が前提であること。
- 資産の換金性、安全性、収益性を検討すること。
具体的には、次の点をチェックするといいでしょう。
①ライフプラン上の目標達成に見合った構成になっているか?
ライフプランの考え方については「ライフプランを安易に作成すると資産が目減りする!?」などを参考にしてください。
②預貯金が多すぎないか?
元本保証の安全性を重視するあまり収益性が軽視されているケースは多いです。
この場合、インフレや円安といった貨幣価値の変化に対するリスクが高くなります。
③不動産の割合が大きいために資産価値が目減りしていないか?
デフレや土地価格の二極分化的傾向が色濃くなっています。
所有不動産の資産価値が下落し、換金性、収益性が乏しくなっているケースが頻繁に見受けられます。
④株式などが多すぎないか?
収益性を重視するあまりリスク許容度を遥かにこえ、安全性の軽視が見受けられます。
⑤リスクは分散されているか?
預金の分散(預金保険機構の条件を確認)、株式・債券・不動産という資産クラスヘの分散。
また、国際分散などの状況を確認しておく必用があります。
⑥相続による遺産分割を意識しているか?
特に中高年者の場合は、公平性や特異性などを踏まえた遺産分割が可能かどうか、そのような構成になっているかを確認しておく必要もあります。
バランスシートの事例
ここで、モデルケースを紹介しますので、それを参考にしてあなたの「バランスシート」を作成して見てください。
【モデルケースⅠ】 資産と負債の内容
家族構成 |
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税引き前年収 |
|
|
妻の収入 |
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保有資産(平成25(2013)年12月31日現在) | ||
|
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負債 | ||
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バランスシート化する
資産 | 負債および純資産 |
現金など 270万円
投資資産 30万円
使用資産 2600万円
|
負債
|
負債合計 1760万円 | |
純資産 1140万円 | |
資産合計 2900万円 | 負債・純資産合計 2900万円 |
資産の中でキャッシュフロー表の貯蓄残高に出てくるのは、300万円(現金など+投資資産)の金融資産部分だけであることが、バランスシートにするとわかります。
負債について云えば、年次ごとのキャッシュフロー表だけでは、実際に把握しづらいところがあります。
このように、バランスシート化することで、金融資産300万円よりも純資産1140万円の方が多くなっていることが明確になります。
要因は、相続で取得した土地(評価額1000万円)です。
建物部分だけを見ると、評価額1500万円に対して、住宅ローンの残債が1700万円です。
つまり、負債の方が大きいので、注意すべき状態です。
ただし、土地部分も含めた不動産の評価額(合計2500万円)を考慮すると、不動産評価額の大きな下落がない限り問題になることはないでしょう。
このケースでは、早期に見直しをしなくてもよさそうだ、という結論になります。
あえて問題点を挙げるとすれば、資産に占める不動産の割合や金融資産の中で預貯金の割合が高いという点でしょう。
バランスシートの問題点
バランスシートを作成した時に、次のような点がある場合は問題です。
- ①資産の内訳に偏りがある。
- ②負債額が大きく、純資産が少額かマイナスになっている。
例えば、以下のようなケースについて考えてみましょう。
- 数年前にマンションを購入。
- 教育費などの支出の増加。
こうしたパターンで、純資産がほぼマイナスになるケースは多いです。
資 産 | 負債および純資産 |
現金など 150万円
使用資産 2100万円
|
負債
|
負債合計 2230万円 | |
純資産 20万円 | |
資産合計 2250万円 | 資産合計 2250万円 |
このような場合、特効薬のような速効性のある改善方法はないでしょう。
例えば、貯蓄を増やしていくと同時に繰上げ返済を実行し、少しでも純資産を増やすような計画を立て、実行していく必要があるでしょう。
これが自営業者の場合は、もっと慎重に考える必要がありそうです。
ただし、純資産がプラスで、今後新たな借入れをする予定がなく、安定した事業収入も期待できるのであれば、大きな問題はないでしょう。
全体的に見て、資産合計に対する純資産の割合が4%程度では低いです。
繰上げ返済などを実行し、バランスシートの改善を図る必要はありそうです。
改善策実行前のバランスシート
資産 | 負債および純資産 |
現金など 800万円
投資資産 200万円
使用資産 4000万円
|
負債
|
負債合計 4800万円 | |
純資産 200万円 | |
資産合計 5000万円 | 負債・純資産合計 5000万円 |
上記のバランスシートに基づき、現預金から400万円、MMFから100万円の合計500万円を自動車ローンとカードローンの完済に充当し、その残りで事業用ローンの繰り上げ返済を行ったものが以下のバランシーになります。
改善策実行後のバランスシート
資 産 | 負債および純資産 |
現金など 300万円
投資資産 200万円
使用資産 4000万円
|
負債
|
負債合計 4300万円 | |
純資産 200万円 | |
資産合計 4500万円 | 負債・純資産合計 4500万円 |
純資産の金額は200万円で変化はありません。
しかし、資産合計に対する割合が4.44%になったことが確認できます。
また、自動車ローンやカードローンを完済し、事業用ローンの一部が返済できたことで、キャッシュフローの健全化も図ることができています。
バランスシートを改善するには、資産を増やすか負債を減らすかのどちらかしかありません。
デフレ、低インフレ環境下においては、負債を減らす方向で計画する方が無難です。
ライフプランでも用いる連年バランスシート事例
単年度のバランスシートが作成できたら、それぞれの資産に予想収益率をかけて、何年分かのバランスシートを作成してみましょう。
連年バランスシート表を作成すると、現状のバランスシートの見直しやポートフォリオの見直しに役立つからです。
55歳会社員Bさんの事例
バランスシートが5年後の退職時にどうなるかをシミュレーションしてみましょう。
55歳時点
- 現金などが2000万円、投資資産が200万円(それぞれ1%と3%で運用すると仮定)。
- 生命保険はすべて個人年金、掛金は60歳で支払い済み。
- 使用資産は全部で2570万円(3%で資産価値が下落していくと仮定)。
※住宅ローンは返済額を計算した結果、5年後には元金が1000万円減る。
※5年後の60歳時には退職金が手取りで2000万円入る予定。
これらの条件に基づいて計算すると、5年後のバランスシートが変化します。
変化をあらかじめ知ることによって、資産運用や住宅ローンの繰上げ返済など、キャッシュフローの改善の方策を練ることができます。
表にすると以下のようになります。
55歳時のバランスシート
資産 | 負債および純資産 |
現金など 2000
投資資産 200
使用資産 2570
|
負債
|
負債合計 1300 | |
純資産 3470 | |
資産合計 4770 | 負債と純資産合計 4770 |
- 預金 年率1%上昇
- 国債 年率1%上昇
- 投信 年率3%上昇
- 自宅・土地 年率3%下落
- 自動車。家財 年率3%下落
60歳退職時のバランスシート
資産 | 負債および純資産 |
現金など 4180
投資資産 221
使用資産 2207
|
負債
|
負債合計 1000 | |
純資産 5608 | |
資産合計 6608 | 負債と純資産合計 6608 |
自分のバランスシートを作成してシミュレーションしてみてください。